松尾芭蕉は裂肛で悩んでいたようです。
“持病さへおこりて、消入計(きえいるばかり)になん。”
(持病まで起こって、苦しみのあまり気を失いそうになった。)
「奥の細道」のなかの一句です。
松尾芭蕉の持病は、裂肛(切れ痔)と疝気(せんき:腹部の疼痛)だったそうで、旅の途中で、持病の激痛に襲われたとき読んだとされる句です。
旅のなかで、松尾芭蕉が弟子の如行あてに「持病下血などたびたび、秋旅四国西国もけしからずと、まづおもひとどめ候」や、女弟子の智月に「われらぢのいたみもやわらぎ候まま、御きづかひなされまじく候」など手紙を送っていたとの資料もあり、持病の裂肛で旅行中も悩んでいたようです。
裂肛は「切れ痔」と呼ばれている病気です。硬い便が出たり、下痢や柔らかくても頑張って便をしたとき肛門に傷がつき、痛みや出血を伴う病気です。大抵の場合、便通がよくなれば自然に治ります。ただ、便秘など排便の状態が悪く、繰り返すうちに段々治りにくくなります。裂肛は潰瘍状になり、炎症を起こして肛門ポリープができたりします。こうなると手術が必要になってきます。
手術になっても、痛みを取るのが目的なので、術後排便時の痛みも大抵の場合最初の排便のときから楽になります。
元禄2年7月27日から8月5日まで、松尾芭蕉は、旅の途中、山中温泉の出湯、泉屋に宿泊し、この間、芭蕉は薬師堂を訪れたり、温泉につかり旅の疲れを癒したそうです。 そこで読んだ句が、
“山中や 菊は手折らじ 湯の匂ひ” (山中の湯に浴せば、中国の菊茲童が集めた不老長寿の菊の露を飲むまでもない。)長寿を得るという意味だそうです。
裂肛もゆっくり温まることで、肛門の緊張がとれ血液の流もよくなり症状がよくなります。
松尾芭蕉も旅の疲れを癒しただけでなく、持病の裂肛の具合も温泉でよくなったのでしょう。