今、渡邉医院では「みんなのいのちを守る署名」を行っています。そのことについて少しお話しさせていただきます。
私の母は今年83歳になりました。いまでも毎日診療所に出てきて受付の仕事をしています。でも、やはり年齢的なこともあって、できる仕事の範囲がずいぶん狭まってきています。渡邉医院のスタッフや、患者さん、そして周りの多くの人たちに助けられて仕事をしています。
でもまだまだ何か仕事がしたい、と思っているようで、その思いがある間は診療所に来てほしいなと思っています。日曜日も入院の患者さんがいるので、診療所に行くのですが、仕事が終わった後、母と、たまに一緒に実家に歩いて帰るのですが、ある日のことです。私の母が笑いながらふとこんなことを言いました。「私がいないほうが、お前も楽だよね。」と。私はドキッとしました。半分冗談とは思いますが、母がそんなふうに思う。そんな社会になってしまったのかと感じました。今、私たちの生活が成り立っているのは、まがりなりにも、母も私も健康であるからです。どちらかが病気になって働けなくなったら、話は全く違ったものになってしまいます。私が病気になれば母の生活は成り立たなくなります。母が病気になると、私の生活もがらっと変わってしまいます。今の社会は健康であることが前提での社会になってしまっています。今の生活が崩れた時、国は何と言うか。「まずは自分たちで何とかしろ、地域で支えあえ。どうしようもなくなったら国が最低限の保障をする。国を当てにするな。」といった間違った社会保障のもとで、本当にいつ崩れてもおかしくない、不安定な社会で生きています。このことを国が明言したのが「地域共生社会」、「我がこと、丸ごと」の論理です。地域共生社会。言葉の響きは良いですが、その中には「公的な支援」という言葉はあっても、「社会保障」という言葉はありません。支援はその基本には、自助、互助の考えがあり、やはり「助けてあげる。」であって、保障ではありません。今、この地域共生社会の考えで、医療、介護、福祉の制度改革が進んでいます。私たちは本来の社会保障の理念を取り戻さなければならないと思います。
その一つの大きな取り組みが、今行っている「みんなのいのちを守る署名」だと思います。この取り組みをさらに広げていきたいと思っています。そして、この署名が持つ意義を知っていただければと思います。